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知らなくても時計は愛せるけど、知ったらもっと愛せるかも。
皆さんの中には、学生時代に歴史が好きだった、得意だったという方がいらっしゃると思います。あるいは今も世界史や日本史がスラスラと頭に蘇る方がいらっしゃると思います。そういう方々には、もしかしたらこのページは不要かもしれません。もっとちゃんとした本やウェブサイトや博物館やらに当たって、なるべく一次情報に近い歴史を頭に刻むべきでしょう。
「そうではない」あなたたち、僕はあなたたちの力になりたい。ふとした疑問を解消してあげたいし、時計好きと言うからにはその伝統をちゃんと理解したいって気持ちに応えたいし、飲み会で話すネタを探している人にきらりと光る話を提供してあげたいし、なんだったら知りたいと思わない人にだって「時計」をとりまく知の体系の大切な一部としての歴史を片鱗でもお見せしたい。
ということで、今からここに記す歴史は、今僕らが腕に巻いている時計がここに至るまでの数百年の歴史をキュッと数分で読める文量にまとめたメモであり、僕という歪んだ性癖を持つ平成もとい令和のジーニアスの私見を多分に含んだ内容であることを宣言しておくとともに、知を体系立てて学ぶことと原著に当たることの大切さを無視するべきではないことをお伝えしておきます。そして、なるべく嘘をつかないように頑張ります。
まず、『時計の種類と進化』では、時計そのものの「種類」がどのように進化していったか、概ね時系列でお届けします。その際のポイントは、①振動部(時の進み遅れを司る)、②表示部(目に見えるようにする)、③エネルギー源(動力源)のいずれかが進化して新しい時計が生まれているということです。これが一番メインの記述なので、さくっと終わらせたければこれだけ読めばOKです。
次に、『主に腕時計に関わる技術や出来事(超抜粋)』では、上記以外でも時計の根幹に関わる技術として生み出されたもののうち、これは知っておかないとちょっと恥ずかしいし入れておかないと僕の品性すら疑われかねないという項目を抜粋しています。クソみたいなかいつまみ方ですが、イメージとしては例えば「●●の発明」は載せても「●●を搭載した時計を世界で初めて発売」は含めていなかったりします。
では、歴史の旅へいざ参らん。(全4889文字/約5分)
■B.C.4000~3000 日時計(誤差:1日30秒以内)
人類初の時計。太陽の影が長さや方向を変えていくことで時間を表示。メソポタミア文明や古代エジプト文明の農耕や採集生活に当たって作られた。古代エジプトの壁画にあるって。駆動・エネルギー源は太陽光、表示は地面や建物の壁。メンテナンスフリーで一気に広がる。日時計以外は基本的に全て時間の計測はできるが時刻を知るには基準時が必要となる「計測器」に過ぎない。その意味で、日時計は今も最強。宇宙へのロマンと直結する、誰しもが憧れるヤツ。だけど、曇ってたら&屋内&夜も見えなくない?となってなくなった。B.C4年には派生してプラトンが天体の位置を表示する天体時計を作った。
■B.C.1400 水時計(誤差:1日1時間以内?)
溜めた水を排出した量で時間を測る仕組み。そのうち進化すると水車を使った大掛かりな装置に。(これはある意味ではエネルギー源が水の世界初の機械式時計と言える。)保守管理に人手がかかるのが欠点。そのコストを受容できるようになってきたということ。これもプラトン。振り子時計発明までずっと最強だった説もある。
■8~9C頃 火時計(誤差:不明)
ろうそく時計に代表される、燃焼スピードによって計時。素材の均質度合いや乾燥度・湿度によって燃焼スピードが変化するのですぐに重宝されなくなった。精度は調べても「あんまり良くない」くらいしか分からない。
■8~13C頃 砂時計(誤差:20秒に1秒以内)
コストのわりに精度が高く使用方法も簡単で外部環境の変化に強いので航海等含めて意外と重用された。音が出ないので機械式時計以降もね。
■18C頃 花時計(誤差:1日30分以内)
よくイメージする花壇時計ではなく、植えられた花の開花で時刻が分かる時計。ロマンかよ…。ていうか精度すげぇ…。
■11~14C初頭 機械式時計(振り子時計)(誤差:1日1時間→数秒~0.02秒)
1309年ミラノの教会に置かれた時計が最古の記録。最初は重りが下がる力をエネルギー源とした。但し、厳密には11Cに中国で作られた水車による時計が脱進機構を備えた最古の機械式時計と言える。
■1504年頃 機械式時計(懐中時計)(誤差:腕時計より良い感じ)
ドイツ人のピーターヘンラインが円筒形の懐中時計を開発したのが初とされる。ぜんまいを用いたのは1511年が初。最近で言えば、ヴァシュロン・コンスタンタンの創業260周年に製作されたRef.57260は57の機構を盛り込む世界最高の複雑時計と言われたり言われなかったり。
■1806~1904年 機械式時計(腕時計)(誤差:1日約5秒※大体クロノメーター規格)
ナポレオンがニトーに作らせた女性用宝飾時計が世界初だが、これはほぼ宝石のおまけの時計。次に1879年ジラールペルゴがドイツ皇帝に軍隊用に2000個製作したが、これはまだほぼ懐中時計を腕につけただけの時計(という説がある)。最後に?最初に?生まれた、僕らが愛してやまない男性用腕時計は、1904年カルティエが飛行機の操縦時に使うことを想定して生み出したサントス。ゼンマイを動力源にテンプとかを動かす仕組み。詳細はこちら。
■1840~1852年 電気時計(誤差:50年に1秒?)
交流電気(コンセント的な。東日本は50ヘルツの。)を使った。そのうちトランジスタも採用し、電池式掛け時計がめっちゃ盛り上がった。現代では電力会社が周波数を調整しているため、長期的にみるととても安定していると言えるっぽい。昔の精度は知らない。
■1957年 電磁テンプ式時計(誤差:1日10秒以内)
ここからは駆動源を主に電力(多くは電池)とする時計。これも電池をエネルギー源として、しかし機械式時計の心臓部であったテンプを動かして計時した。アメリカのハミルトンが開発。日本ではリコーと組んで1962年から製造・販売したが、その後のnew時計達に色々叶わなくて消滅。だからこそコアなファンがいる模様。
■1960年 音叉時計(誤差:1ヶ月に1分以内)
チューニングフォーク(音叉)、電磁コイル、トランジスタ回路で駆動する。アメリカのブローバがアキュトロンとして発売。機械構造も見せていて、今見てもカッコいい。
■1969年 クォーツ時計(誤差:1年に1秒以内)
水晶振動子を使用。世界初の市販腕時計はセイコーのアストロン。スイス時計業界に壊滅的な被害を与えた「クォーツショック」の大元はこれ。(諸説あり)2019年時点の腕時計で言えばシチズンのCaliber0100が最強。
■1988年 キネティック(誤差:1ヶ月に15秒以内)
自動巻きローターによって発電と充電をおこない、その電力でクォーツを動かす時計。セイコーが当時の名前でオートクォーツとして発売。
■1999年 スプリングドライブ(誤差:1ヶ月に10秒以内)
自動巻きローターあるいは手巻きによってゼンマイを巻きあげて、その力(電力)でクォーツを駆動させる時計。キネティックとの違いが分かりづらいが、キネティックは電池を充電し、スプリングドライブはぜんまいに力を蓄える。つまり機械的な要素が多いので、歯車とかも多くて魅せ甲斐がある。
■1998年 熱発電時計(誤差:クォーツと同様)
体温と外気の差を利用したゼーベック効果で発電しクォーツを駆動。セイコーが初、翌年にはシチズンも。
■2017年 ゼニスオシレーター(精度:1日に0.3秒以内)
純然たる機械式時計として「ホイヘンス以来の発明」と言われる。テンワ、ひげゼンマイ、緩急針、ヒゲ持ち、アンクルの全て(調速脱進機)をシリシウムという素材で一体化した。
■1990年 電波時計(誤差:原子時計と同様)
ドイツのユンハンスが世界で初めて発売。世界4ヵ国の標準電波を定期的に拾って時刻を修正してくれる。独立した主体として精度を求めてきたこれまでとの大きな転換点。でも、ということはつまり時計単体での精度は一般的なクォーツということ。
■2011年 衛星電波時計(GPS)(誤差:原子時計と同様)
シチズンが発売したエコ・ドライブ サテライトウエーブが世界初のGPS腕時計。翌年にはセイコーも。標準電波が届かない国や地域でもイケることになった。
■1949年 原子時計(誤差:200万~3000万年に1秒以内)
セシウム原子のスピン角運動量から計算できるらしい。原子時計の登場によって、それまで基準だった地球の自転(24時間で1回転)が微妙にずれてるじゃん!と分かり、結果としてうるう秒が登場した。
■2001年 光格子時計(誤差:300億年に1秒以内)
理化学研究所が考案した次世代の原子時計。。「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光を対向させてできる、数十ナノメートルの微小空間にレーザー冷却された原子を閉じ込めて、その原子が吸収する光の振動数を測定するという、もはやよく分からないけどとんでもないロマン満載な時計。2019年にはさらに3000億年に1秒誤差に向けたステップにも進んだ。
□1500年 ぜんまいの発明 byピーターヘンライン
錘とかと違って揺れや向きに左右されない動力源を見つけることで、携帯時計への道を開いた。(お盆に載せてみんなで運ぶレベルで「携帯」と言うなら1400年代からあったみたいだけど。)
□1582年 振り子の原理 byガリレオガリレイ
同じ流さの振り子なら、重さとか振れ幅に関係なく同じ時間で振れること(振り子の等時性)を発見した。イタリア・ピサのとある礼拝堂で説教中に暇で見ていたランプの揺れで気付く。天才かよ。1638年発表。
□1671年 退却式アンクル脱進機の発明 byウィリアム・クレメント
現代の振り子時計にも使われる形のやつを開発した。その後はジョージ・グラハムが直進式脱進機や水銀補正振り子、ジグムント・リーフラーが自由脱進機や温度補正振り子などを続々と開発。その後何十年~100年近くになって、スイス式(クラブツース脱進機)やらそれを改善するイギリス式(ラチェットツース脱進機)やらをトーマス・マッジが、さらに1974年に共軸脱進機をジョージ・ダニエルズが開発したりするんだけど、まぁなんか全部すごいリスペクトしておけばOK。
□1671年 ひげゼンマイつきのテンプの発明 byクリスチャン・ホイヘンス
詳しくは技術のページにて。1674年には携帯時計で日差数時間→10分以内を達成。
□1800年頃 トゥールビヨンの発明 byアブラアム=ルイ・ブレゲ
内部の一部の構造全体を回転させることで、姿勢差誤差をキャンセルする機構・時計のこと。「重力を無効化する」とか言うとめっちゃカッコいい。
□1816年 クロノグラフの発明 byルイ・モネ
60秒まで計測可能な初めてのストップウォッチ機構。1821年にはニコラ・リューセックがもっと長いやつも開発。こんなカッコいい機構を生み出してくれてありがとう。
□1880年 クォーツの圧電効果を発見 byジャック・キュリー、ピエール・キュリー
電圧をかけると一定の周期で規則的に振動する効果のことを圧電効果と言う。この後1921年に水晶振動子が発明されたり、なんかどんどん小型化したりして、これがクォーツ時計につながる。
□1926年 自動巻き機構の発明 byフォルティス
おかげさまで毎日手巻きしなくて済んでいます。ありがとう。
□1969年 自動巻きクロノグラフの発明 byセイコー、ブライトリング、ホイヤー・レオニダス、ハミルトン・ビューレン、デゥボア・デプラ連合、ゼニス(3種類同年に発表)
素人的にはわざわざこれを取り上げるのって不思議に思うほど機構の組み合わせでしかないのでは?と思われるかもしれないけれど、実はかなりの悲願として実現されたというドリーム感、しかも同じ年に3種類一気に出てきたというセンセーショナルさ、さらに同時期からスイス時計業界がクォーツショックで暗黒期に突入するというドラマチック感から、覚えておいた方が良いやつ。
織田 一朗『時計の科学 人と時間の5000年の歴史』(講談社、2017年)
織田 一朗『時計の針はなぜ右回りなのか』(草思社、1994年)
本間 誠二『機械式時計<解体新書>』(大泉書店、2001年)
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