実に難しいその問題について

 僕らは、腕時計にたくさんのものを求めます。少なくとも僕は求めます。
 だから、もしあなたが時計に求めるものの中に「異性にモテたい」というファクターがあったとしても、僕は決してそれを責めたりしません。茶々を入れたり、色眼鏡で見たり、ニヤついたり、会う度に「最近モテてる?」などと聞いたりもしません。大丈夫です。
 でも、それならば「腕時計」と「モテ」というものはどんな関係にあるのかを、きちんと認識しておいた方が良いと思うんですね。ちなみに僕は男性で、僕個人の視点から書ける文章は、「高級時計をつけた男性が女性にどのくらいモテるか」という軸が主となることを予め申し添えておきます。但し、女性の方にとっても、男性がどんなことを考えているかのイチ材料にしていただけるとは思います。…と、ここまでですでになんか男性代表!みたいな書きぶりになっていますが、ほんとに、あくまでも、ただの面白くて頭が良くてイケメン気味で時計が好きな1人のメンズの視点に過ぎないことを何度も申し上げておきます!



”ロレックスの腕時計、コスモグラフデイトナ黒文字盤”

■ぶっちゃけ、高級時計してたらモテるの?

 これですね。この答えだけ知りたいんですもんね。だからここで真っ先に僕の答えを書こうと思いますけど、実は「モテる」とか「モテない」とかその断定的な答えの先、あるいは背景を知ることが、「モテ」の精度をクロノメーター級にまで高める最善の方法であるということもまたご理解ください。

「高級時計をしていても(ほぼ)モテません」

 これは、ロジカルで当然の帰結であり、同時に実感・体感です。ロジカルシンキングをお伝えするには、因果関係と相関関係についてご理解いただく必要がありますが、それをここで展開しだすと新書一冊分くらいになってしまってほとんど誰も読まないので割愛します。それより考えてほしいのは、「あなたにとって『モテ』って何ですか?」ということです。


■あなたにとっての「モテ」とは何か?

 モテについては学会誌に投稿できるレベルの論文を何本か温めているレベルの人間として質問します。時計よりもモテに関するウェブサイトを開設すべきだったのではないかと全世界のフォロワーから思われている人間として質問します。

「あなたにとって、『モテ』って何ですか?」

 モテたいと言った時にイメージする像があるはずです。バス停で会うあの子に気付いてほしい、職場のあの子にカッコよく見られたい、あるいは合コンでもてはやされたい、さらにはキャバクラで脚光を浴びたい。様々なモテの形が、人間の数だけあるはずです。ここでは3つに分類して考えることにしましょう。
(1)すでに最低限のコミュニケーションのある知人や友人
(2)合コン(初対面、刹那的なコミュニケーション)
(3)キャバクラ


 (2)及び(3)については「分かりやすい時計」ということを条件にモテうると言われています。「分かりやすい」とはつまり、ロレックスです。相手の時計教養レベルによっては、カルティエやフランクミュラー、ルイヴィトンやウブロ、オーデマピゲやオメガくらいまでイケるかもしれません。「分かりやすさ」はまさに時計に求めるものの代表的な軸の1つであり、序盤でお伝えした「高級時計をしていてもモテません」という断定の例外がここに当たるということもご理解いただく必要があります。これをわかっていないと、例えば技術的には唯一無二の特徴を持つメーカーやコアなブランドをチョイスして、こんなはずじゃなかった…と絶望して一生時計が恋人…ということにもなりかねません。ということで、(2)及び(3)などでのモテの確度を高めたいならば、素人や時計に親しみのない女性にも分かりやすいブランドを選びましょう。(ちなみに、冒頭に例示したバス停で会う子に…というのは、(2)に含まれますが、合コン以上に刹那的なので時計で何かをアピールするのはより難易度が高いです。)

 さて、『腕時計ロマンチシズム概論』とその作者の僕の品行方正さ、誠実さ、生来の生真面目さを持つ僕は、(1)で迷える子羊を救いたいと心から思っています。あなたがそれを望むならば、方法を伝授しましょう。その方法とは、「時計に対する真っすぐな想いを心に秘めておく」ことです。遠回りに見えて、これが最善ルートの1つと断言できます。


■モテる時計があるのではなく、時計をモテに活用しうるのだ

 世の中の多くの女性は、人によってレベルは様々ですが、男がどんな腕時計をしているかということに関心がありません。もし時計自体から何かを判断するとしたら、①お金持ちかどうかと ②センスが極めて悪くないかです。(※センスの悪い時計があるという意味ではなく、その人のスタイルに相対的に全く似合わない時計を着用していたらそう思われる可能性が高いとかそういうことです。)その意味では、お金持ちであることをアピールしたいという目的があるならば、上述の目的(2)及び(3)とほぼ同じ論理により有効に作用する範囲は広いと言えます。但し、金回りの良さを時計で表現してほしいか否かは、女性の心をよく推測する必要があるでしょう。成金スタイルを嫌う女性もたくさんいますし、分かりやすい時計をしていてくれた方がいっそ潔いと思う方もいるでしょう。

 少し話が逸れましたが、時計それ自体からほとんど情報や魅力を伝達できないのであれば、時計に意味はないのかというと、もちろんそんなことはありません。では何に興味があるかと言えば、それは腕時計という装具ではなく、「あなた自身」です。人としての考え方や佇まい、スタイル、所作やそれらから伝わる雰囲気です。…もはや腕時計のウェブサイトではなくなってきましたが、もう少しの我慢です。なんとここで、「時計に対する真っすぐな想いを心に秘めておく」技が活きてきます。この技の意図は、1つには「良い時計してたってモテるわけじゃないから黙って自分で好きな時計しとけよボケ!」というメッセージもなくはないのですが、それに加えていつか女性があなたの時計や身なり、モノに対する思い入れ等の話に及んだ時に覚醒します。

 「いつも格好良い時計してるよね。どんな時計なの?」
 「こだわりありそうだよね。素敵なスタイルね。」
 「ペリフェラルローターのチョイスが最高にロマンチックだわ。」(大穴)

 こういったセリフが出てきたらラッキーです。チャンスです。すかさず、しかし押しつけがましくならないように、時計に対する真っすぐな想いを楽しく語ってください。ここには様々な恋愛のテクニックが含まれますが、例えば人は好きなものについて語る時に輝くものです。緊張して本来の態度や魅力が出せない人にもそれは当てはまります。また、時計に対する想いの吐露は心理学でいうところの「自己開示」に当たります。内面を曝け出すわけです。自己開示には「返報性」があるので、相手も心を開いてくれるようになる可能性が極めて高いと言えます。
 さらに、モノを大切にする人間というのは一般的には嫌われはしません。それどころか場合によっては、パートナーのことも大切にする素敵な男性だと受け取ってもらえます。これが、時計というアイテムを恋愛という舞台で最高の武器とする最善の方法だと言えるでしょう。
 時計に対しても恋愛に対しても、あなたのピュアな気持ちを『腕時計ロマンチシズム概論』は応援しています。


■「分かりやすさ」についての補論

ファッションブランドか時計ブランドかも併せてご覧ください。)
 時計の世界とキャイキャイ触れ合っているとたまに忘れますが、「一般的なひと」は別に時計を知りませんし毎日考えていません。『腕時計ロマンチシズム概論』とか、これを見ているあなたとか、はっきり言って異端です。狂ってる。だから、「こんな高級時計を買えばモテるはず!」とか信じて時計購入に走ったとしても、それは上述の通りほとんどの確率で失敗するでしょう。
 これを「分かりやすさ」という観点から仔細に見て、特にファッションブランドとの兼ね合いで言えば、時計専業メーカー(の中で僕らが格好良すぎると信じてやまないメーカーが例えばあったとして)の高価な時計よりも、より安価なファッションブランドの時計の方が、一般人(そう呼ぶのが失礼であったら申し訳ございません。代わりに「パンピー」と読み替えていただいても結構でございます。)にとって分かりやすく、モテる可能性もあるということです。時計専業メーカーで分かりやすさを求めたいならば、ほぼロレックス一択です。頑張ってください。

 ですがここで、時間軸という考え方も忘れてはいけません。僕の職場の後輩にこんな奴がいました。時計がほしい、その動機はモテたいからだと。かつ、社会人になったばかりの彼がモテると信じたのは、フェン●ディやディ●ーゼルやその他ファッションブランドの時計でした。確かに、この時点の彼にとってのモテたい対象は大学生や社会人になりたての女性ですから、その意味ではあまりにもハイブランド過ぎないファッションブランドという選択肢も「今この時点」ではアリかもしれません。ですが、時間軸で考えれば、一般的に自分の年齢の上昇とともに恋愛対象者の年齢も上昇し、すると大人の女性が知っているブランドや時計ブランドはどんどん広がり深まっていきます。(もちろん、マニアとかそういうことではなく教養として。)すると、社会人なりたてでモテていた時計がだんだん輝きを失っていく可能性もあります。(先に挙げたブランドが、というわけではありません。ブランドには、セグメントやターゲット層がありそれぞれの役割を果たしていると考えるからです。)彼に伝えたのはこうです。

 「もしかしたら今はそのファッションブランドがモテるかもしれない。今、君の欲しい時計を買うことに間違いもない。だけど、もし5年後10年後も同じ目的を時計に求めるならば、その時にモテるのは今イメージするものとは違う時計かもしれないよ。大人の女性にとってより分かりやすいブランドがあるかもしれないし、逆に質実剛健なモノづくりをする時計メーカーをつける男性が魅力的に見える可能性も大いにある。モテたいという動機は捨てなくていい。ただ、広く、長い視点でモテと真剣に向き合ってほしい。」

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※順次更新します。


【時計✕エコ:『エコな男はモテる』論】

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