最高の腕時計の見つけ方
(1)見つけ方のパターンを想定してみる
さて、運命の腕時計購入に向けて、まずは腕時計を見つけてあげなければなりません。世の中には沢山の腕時計があり、いえむしろあり過ぎて、その全てを見つけて比較のテーブルに載せて…というのは現実的には無理です。それでも僕達は、なるべく大きな可能性を掴むために探し、出逢いを求めるのです。腕時計を見つける(つまり存在を認知して朧げながら価格やメーカーや特徴等を理解する)ために考えられる方法を列挙してみましょう。
1.インターネット
今は情報化社会というのも笑っちゃうくらいの情報化社会ですから、かなり広範な情報がネットで手に入ります。だから、「こんな項目、そもそもいらなくね?」と思う方もいるかもしれません。しかし、腕時計について考えた時に、インターネットは特定の時計を詳しく調べるためには機能しても、条件も嗜好も明らかでない個人の気に入りそうな腕時計、可能性を広く示してくれるためにはわりと向いていない気がします。感情という面でもそうですし、何よりネット上の写真って本物とはやっぱりどこか違うんですよね。ただそれでも入り口としてはありなので、個々のメーカーのウェブサイトを一々見るよりは、リンク集よりいくつかの腕時計の『総合情報サイト』をさらーっと見てみると心にひっかかる時計があるかもしれません。
2.人
人から間接的に得られる情報は、時として大きな手段となりうるでしょう。特に、その人が実際使っている腕時計について、出逢い方や使い心地、実は好きになれないポイントなどを聞いてみると良いかもしれません。さらに、今何かの腕時計を持っている人が、(次にすぐ買うかどうかは別として)今また気になっている腕時計を聞くと面白いと思います。それは、今ある腕時計で満たされないポイントや、新たな方の腕時計にしかない固有の魅力がどこにあってそれが自分にとって価値があるかを検討できる手がかりになるからです。腕時計においては、そこにその人の感情が乗るということを情報のプラスの価値として得られることが面白いと思います。
3.本
本にはまじで短絡的・独断的に大きく分けて3種類あると言えます。1つは、腕時計をある種アカデミックに(エンターテイメント性ももちろん含め)研究や分析の対象として論じたもの。もう1つは、情報誌(雑誌)で、新しい情報を伝えることに比重を置いているもの。最後が、図鑑で、データベース的に各メーカーの腕時計を網羅的・説明的に掲載するものです。最もこのステップのイメージに近いのは、図鑑でしょう。本屋さんに行くと、『腕時計大全』等の本が様々にあります。購入後も眺めて楽しいと思います。ちなみに購入後、よりのめり込む過程で、どんどん前者の方に歩みを進めていくのがディープな腕時計ファンです。
4.お店
最後に挙げたこの手段が最も有効だと言えます。但し、全てを見て回ることはできないので、効率や可能性を広げるという観点から1〜3の手段も上手に利用できるといいですね。さて、お店で腕時計を見るというのは、実はハードルが高かったりしますよね。高級腕時計店の前を通ったことのある人は、入り口に立つ屈強なガードマンに気付いたかもしれません。あんなんされたら、入れないですよね。いかに目を合わせないかに神経すり減らすわ。
…ということで、このステップにおいては、僕は百貨店や時計販売店をおすすめします。これらのお店では、単一のメーカーブティックと異なり一般的に様々な種類のメーカー・モデルを揃えています。それでいて高級感はあるので、高揚感をもって色とりどりの腕時計に向き合うことができるでしょう。これは本当に「時計あるある」ですが、ネットで見ていたのと実際に見たのでは全く印象が異なることが多々あります。「絶対に丸いケースがいい!」と言っていた人が一度試着したら「四角いケース、むしろ良い!」に改宗してしまうことも。リアルな感覚を大切にしていきましょう。
(2)このサイトを活用してみよう
せっかく!せっかく人生の貴重な1秒を1分を使ってこんなサイトを見てくださっているのですから、せっかくなら『腕時計ロマンチシズム概論』をフル活用しませんか?
メーカー一覧
このコンテンツをぜひご覧ください。ポイントは、「画像を掲載していないこと」です。本来なら、腕時計の見た目・デザインというのは大事で、いやほぼ全てそれと言っても過言ではありません。が、ここではあえて載せず、一つ一つのメーカーを時計業界と相対させて事実や僕の考えを言葉で説明しています。(決して画像を載せるのが面倒だからではありません。ご理解ありがとうございます!!)視覚から入るなら、どこでもいいわけです。本でもネットでもお店でも電車のつり革でも。でも、ロマンを追求したい方には、あえて一番大切かもしれない視覚を一旦置いておき、例えば電車のつり革で気になってしまったメーカー名をここで調べ見つめてほしいのです。
このロジックを応用すると、例えばこんな調べ方ができます。パッと見とかを置いておいて、「予算的にイケそうなメーカー郡を知る」「あえて無名なものを選びたいため知名度でソート(並び替え)する」「最初に気になったメーカーと似ている(価格帯と知名度が一緒等)つまり競合しそうなメーカーを調べてみる」等が可能でしょう。ぜひ賢くご利用ください。
coffee break!「高級クォーツという選択…?」
本サイトでは、基本的に機械式高級腕時計を想定した話の構成をしています。ですが、本ステップにおいて、クォーツという選択肢を完全に無視することはできないでしょう。そのため、ここでご紹介します。
まず、基礎知識でも学んでいただきましたが、現代の高級腕時計市場においては機能は度外視され、機械式腕時計イコール高級な工芸品、クォーツイコール安価な工業製品と位置づけられることが一般的です。そんな中でも、堂々と『高級腕時計』として戦っているメーカー・モデルがあります。具体的には、以下の2つに大別されます。1つは、主に宝飾時計やGショックなど、デザイン・機能面に特化した腕時計です。こちらはクォーツの優位性(小型・軽量でデザインや機能上の制約が少ない)を利用して、宝飾品として求められる華奢さや目指すべきデザイン、特殊な機能を実現していると言えます。また同時に、女性は比較的、機械式であることへのこだわりが少ないとも言われます。主に美観性・機能性を実現する手段としてのクォーツを選ぶことは、十分ありうる選択肢でしょう。もう1つは、腕時計の工芸品化に伴ってある意味で軽視され続けてきたその『精度』にあえてまた光を当て、それを高めることで工業製品を超えた価値を生み出そうとする高機能クォーツです。代表的な例では、グランドセイコーやロンジン コンクエストVHPなどです。シチズンもまた、2018年に「年差1秒」という驚異的なムーブメント生み出しています。これらの腕時計には、「機械式腕時計が高級腕時計の代名詞となる中で、あえてクォーツを選ぶ」という強い矜持を感じることができます。これもまた、有力な選択肢のひとつでしょう。
最後にコメント。オーバーホール代もかかりませんし同じ外装レベルの機械式腕時計と比べれば安価です。僕もグランドセイコーを愛用しています。が、電子回路は金属だけでできた機械式と違って寿命があること、クォーツだけだと後から機械式がほぼ間違いなく欲しくなることを付け加えておきます。
coffee break!「スマートウォッチという選択…?」
こちらも近年ホットなトピックです。僕自身、タグホイヤーのコネクテッド モジュラー41というモデルを使用しているので、その使用感を含めて書かせていただきます。
まず、スマートウォッチの存在自体が広く一般に普及したのは、アップルウォッチの登場がきっかけと言われています。もちろんそれまで存在もしていましたが、ごく一部のギーク、ガジェット大好き人間達に限られていました。それが時を同じくして2015年、スイスの高級腕時計メーカーとして初めてスマートウォッチを発売したのです。このニュースは時計業界、ウェアラブル端末の業界でともに話題になりました。僕も漏らしそうになるほど興奮しましたね。その後タグホイヤーは改良を重ね、初代で45mmだったバカデカさを41mmにして2018年執筆現在に至っています。その流れで、他の高級腕時計メーカーもスマートウォッチに参入してきました。モンブラン、フレデリックコンスタント、同じLVMHグループでは、ルイヴィトンやウブロ等です。これは、スイス高級時計メーカーにとってメインストリーム、主力商品にしようというわけでは決してなくても、消費者や社会のあり方を敏感に捉え姿形を変え進化し続けるという覚悟の現れ、メッセージだと僕は理解しています。スマートウォッチはあくまで電気製品で、機械式腕時計のように一生使うことはほぼ間違いなくできません。ぶっちゃけ、せいぜい5年くらいです。それでもいいと思える物好きが買うのが一番良いと思うので、少なくとも1本目にはあまりおすすめしません。
但し、例えばタグホイヤーでコネクテッドを企画したジャンクロードビバーという人は、機械式腕時計の価値の源泉が『永遠性』にあることを理解していたため、コネクテッドウォッチの『交換サービス』、つまり数年後に追加料金を払えば機械式腕時計に本体だけ変えられる仕組みを併せて発表しました。(モジュラー式の製品で、本体、ラグ、ベルト等がバラバラに組み立てられる性質なのです。)この辺りの姿勢はさすがだなぁと心で涙を流しながら、気付いたら何個目かのタグホイヤーを買ってしまっていたのでした。
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(2018年10月10日コラム)