基礎知識
(1)機械式とクォーツ
何と言ってもまず理解したいのは、この2つの違いです。これを知らずに腕時計を買うのは、初期装備で魔王に挑むような、あるいはアルミホイルと電子レンジだけで料理を作るような、そんな無謀な行為だと思ってください。非常に危険です。怖い。ここでは、あくまで必要最小限、できるだけわかりやすくデフォルメしてお伝えしますので、もっと知りたくなったらリンク集や他のサイトへGOです。
まず、クォーツ時計とは、一般的に『基本的に電池を動力として、水晶振動体により調速をおこなう時計』です。水晶振動体のことをクォーツと呼びます。はい、何それ?思いますよね。まじごめんなさい。でも仕方ない。ここらへんは覚えておいた方が後々モテることになりますので我慢してください。
さて、水晶振動体というものは、まぁ水晶の小さな塊で、これに電流を流すと規則的に『振動』することが発見されたのです。その振動数なんと32,768ヘルツ!それを利用し、32,768回 振動するごとにICが読み取り、その時間を『1秒間』と決めて針を動かすわけです。はい、ここで諦めそうになった人、大丈夫。『根性』と程遠い僕でも今では何となく分かるくらい、原理は単純です。
次に、機械式時計とは、『(電池を使わずに)ゼンマイの動力で駆動し、テンプで調速をおこなう時計』です。電池や電子回路を必要とせず、あくまで機械(力学)的な仕組みで動いていて、それがロマンですよね。ここで登場した『テンプ』については、物知り顔で「あー、難しい問題だよね!」等と言っておけばコトが済みますが、念の為簡単に解説します。テンプの肝はテンワで、ほぼイコールと思っといてもらえればいいんですが、ゼンマイのほどける力がテンワという時計の一番せわしなく動く丸い輪っかをくるくる反復運動させます。その振動数はメーカーやモデルによりますが、4振動から10振動くらいです。つまり輪っかが4〜10回くるくるしたことを持って1秒間を数えるのです。すごくない?これすごくない?ロマンかよ…
さぁ、ここでクォーツと機械式を比べた長所と短所を考えてみましょう。まず、クォーツは正確です。月に数秒、例えばグランドセイコーの年差クォーツ等では年に10秒未満の誤差しか起きません。なぜなら、振動数が圧倒的に多いから。ゆっくり回るコマより早く回るコマの方が安定するように、振動数が高い方が精度が高いのです。次に、ムーブメントにかかる手間が段違いのため、一般的にはクォーツの方が安価です。すごい技術みたいに言いましたが(実際すごいですが、)100均の腕時計なんかにももちろん搭載されてます。ここらへんをまとめると、『高精度で、多機能化・薄型化・小型化もしやすく、安価で量産性も高い』となります。最強かよ!!では機械式はクソなのかと言うと、いやこんなサイトを運営するくらいなのでそんなわけなく、機械式は電気回路を用いないので、その気になれば半永久的に直して使い続けることができます。ロマンです。(その分、修理(オーバーホール)代はかかります。が、大抵の時計ファンはそのコストからは目を背けることに決めています。)他にも、電池交換の必要・手間がかかりません。使いたい時に電池が切れてて使えない!なんてことはありません。機械式は一般的には人の手で作られるため高価で手間がかかって決して多機能ではありませんが、そのロマンは、ロジックを超えていくのです。機械式時計の魅力については、こちらのページにこってりとまとめたので、ぜひご覧ください。実は重要なキーワード『マニュファクチュール』や『時計の歴史』、『腕時計不要論者との闘い』についても述べています。
(2)自動巻きと手巻き
ここからは主に機械式時計の話をします。いざ機械式時計を買おうとした時、そこに2つの選択肢が生まれます。「セクシーなの?キュートなの?」ではありません。「自動巻きか手巻きか」です。英語でカッコいいめに言うと、「オートマティックかハンドワインドか」です。これは、時計の動力となるゼンマイをどう巻き上げるか?による分類です。
自動巻き(Automatic)は、その名の通り、中に入ったローターが回転して勝手にゼンマイを巻いてくれます。日常生活で普通に腕時計を着用していれば、毎日ゼンマイが巻き不足等にならず快適に過ごせます。
手巻き(Handwind)は、自分の手で巻く必要があります。毎日決まった時間に決まった回数をゆっくりと巻いてあげることが時計を長持ちさせるポイントです。
さて、こう考えると自動巻きの方が圧倒的に楽でいいじゃん!となりますが、機能性では推し測れない魅力があるのが機械式時計。自動巻きは楽ですが、その分(ローターが入っているので、)シースルーバック(裏スケ)になっていてもムーブメントの全容を楽しむことはできません。その点、手巻きは美観性に優れ、より趣味性が高いと言えます。でもまぁ服を着ている時と着てない時どちらの方が好きか、みたいな難しい問題なので、ぜひ自分の胸に聞いてみてください。あとは、自動巻き機構がない分だけ相対的に作りがシンプルなので、故障の可能性が低かったり、修理も容易・安価だったりします。実際には、昨今手巻きの腕時計というのはそう多くはなく、(ある程度の価格帯になるとむしろ増えますが、)特に100万円以下やエントリーモデルでは自動巻きがほとんどです。ですので、自動巻き・手巻きという視点出発でなく、まずは好みのデザインで決めるのが良いと思います。
(3)正規品と並行輸入品
「割引とかセールとかってあるんだろうか?」
高価なものを購入するなら当然考えることだと思います。結論は、「ないけど、ある」だと僕は思います。
まず、セールについては、高級腕時計と呼ばれる製品については基本的にないと思ってください。(後述) 次に割引です。ここでポイントとなるのは、流通の徹底的な管理です。例えばうまい棒は、駄菓子屋でもスーパーでもコンビニでも、どこでも買えます。ですが、例えばロレックスは、路面店等のブティック・直営店や高級デパート・百貨店でしか「正規に」買うことはできません。そのため、コストが下がるという視点は下記2つだけ。
1つ目は、デパート・百貨店の優待。分かりやすい例では、西武や高島屋ではシンプルにポイントが貯まるので安く買えるのとニアリーイコールですよね。他にも三越伊勢丹等、自社展開するクレジットカードで割引やポイント付与のある場合もあります。
2つ目は、本項目のテーマでもある「正規・並行輸入」による違いです。正規品とは、文字通りメーカーから供給される正規の商品を正規の販売店で販売するものです。一方、並行輸入品とは、外国等で調達された正規品を日本国内で二次的に販売するものです。並行輸入品は商品そのものとして正規品と違いはありません、為替差のため割安なことが一般的です。(あるいは、日本国内では正規品として入手の難しいモデルの入手手段にもなり得ます。)
ここで注意しておきたいことは、各メーカーの並行輸入品に対する扱いの違いです。メーカーによっては、並行輸入品のオーバーホール料金を正規品に比べ高額に設定していたり、修理そのものを受け付けなかったりする場合があります。これを俗に『並行差別』と呼びます。前者の例で言えば、LVMHグループ(タグホイヤー・ウブロ等)やブライトリング、後者はフランクミュラーが挙げられます。並行輸入品は一般的に定価より安いです。しかし、腕時計を一生維持しようと思った時には、維持費の面においてその安さを打ち消すほどマイナスに作用する可能性もありますので覚えておいてください。ちなみに、例えばネットショップや家電量販店等もほとんど並行です。
最後に追加でお伝えしておくと、正規品の購入と並行輸入品の購入は、『ムード』の面で大きな違いがあります。正規品として高級腕時計を購入する場合には、店員さんからの腕時計に対する細かい説明や注意事項等があり、いかにも大きな買い物をした感じを得られます。が、並行輸入品の場合はそれは薄いかもしれません。値段という実をとったという感じでしょうか。決して対応が悪いことはありませんが、一世一代の大イベントを彩るような感情の高まりは薄いかもしれません。僕からおすすめしたいのは、まず1本目に買うなら正規品を、です。買う前のブティックでのドキドキ感、選ぶ途中の店員さんとのコミュニケーション、いざ買うことを決めソファにかけた時の落ち着かなさ、そういった1秒1秒も含めて、『腕時計を買う』ことを楽しむことができるのは、正規品(正規店)ならではの喜びだと思うのです。
(4)新品と中古品
上述の正規品と並行輸入品と似た話になります。基本的に初めての高級腕時計購入!とイメージした時には、新品が想定されるかと思います。ちなみに、並行輸入品も一度販売業者等を介するため、厳密に言えば新品ではなくなります。(新古品?)中古品は安いですが、当然誰かが使用したものです。どんな扱い方をされたか分からない以上、見た目がきれいでも中身の機械に問題を抱えている可能性もなくはありません。そのため、中古品を買う場合には、信頼できるお店で買うことが大切です。(リンク集に馴染みのお店を記載しているのでご参考まで。)
また、並行輸入品のオーバーホールと同様、並行差別のあるメーカーの中古品には注意が必要です。(但し、国内正規品として購入された商品の中古品の扱いは、各メーカーで扱いが違う(正規品として扱われるケースもある)ようなので、気になる方はよく調べてみてください。)
中古の良さは、新品では入手できないレアなモデルと出逢えたり、新品価格ではちょっと手の届かないメーカーにも挑戦できたりすることでしょう。ただ、やはり腕時計を手に入れるまでのプロセスを含めて、1本目には新品をおすすめします。新品と中古、長所短所を理解し、うまく利用したいものですね!
coffee break!「腕時計が強いのってどこの国?」
時計の歴史ともつながりますが、実は時計産業の始まり・きっかけはフランスやドイツです。めちゃくちゃシンプルに言うと、宗教弾圧によって隣接するスイスに時計技術が移り、初めは農業との兼業において時計工業・産業が確立することになります。途中、アメリカとの競争に一度破れその一貫生産方式(今のマニュファクチュールにつながる)を取り入れたり、イギリスが勝手に没落していったり、日本に追い越され別のルール(デザイン面での勝負であり、工業品から工芸品へのシフト)で勝負に勝つようになったりしました。
…ということで、今話に登場した国々、それぞれで今も強いメーカーが多くあります。フランス発祥ではカルティエやブレゲ、生産ではペキニエ等があり、貴族文化において培われた宝飾技術をもとに格式高いデザインを生み出すイメージです。ドイツでは、ランゲ&ゾーネを筆頭に、クロノスイスやバウハウスの系譜を継ぐノモス等があります。ドイツと言えば『クラフトマンシップ』という言葉が大抵は出てきて、質実剛健なモノづくり大国であることを表しています。イギリスはアーノルド&サンくらいでしょうか…それも今ではスイスに本拠地を起き、日本のシチズングループのブランドですので、現代の時計産業の本丸からは外れている印象です。我らが日本は、セイコー、シチズン、カシオ等ですね。高価格帯においてスイスブランドに苦戦を強いられているものの、低〜中価格帯においてはその機能性・信頼性等において大きな信頼と売上を誇っています。ブランド化・イメージ戦略が鍵となっていて、セイコーエプソンのグランドセイコー独立ブランド化や、シチズンのグループ戦略としてのスイス高級ブランドM&A、カシオすらGショックの高級モデルを出してきています。がんばれ日本。
さて、残りはスイスですが、正直に言ってスイス時計産業の圧倒的な存在感は他国の追随を許していません。メーカーを挙げることも無駄なほどで、他国発祥の腕時計メーカーでも今や生産をスイスでおこない文字盤に「swiss made」と刻むことが絶対的なステータスとして機能しています。但し、長い歴史の視点から見れば、この勢力もいつまで続くかはわかりません。僕達の生きている間に何らかのパラダイムシフトが起こる可能性もあるかもしれませんね!